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【レビュー】大好きな町に用がある :角田光代

 

大好きな町に用がある :角田光代著のレビューです。

大好きな町に用がある (SWITCH LIBRARY)

大好きな町に用がある (SWITCH LIBRARY)

 

 

一瞬でも笑え合えたり、言葉を交わしたり、笑みにも言葉にもならない何かを交換する旅の喜び

 

角田光代さんは小説、エッセイ、どちらも好きで漏れなく読んできましたが、とりわけエッセイの中でも「旅」をテーマにしたものが面白い。

 

その場所がいかに素敵か、何が美味しいか、珍しいか等々、どうしても旅の話になるとそっちに行きがちだし、読者もひょっとしたらそれを期待しているのかもしれない。しかし、角田さんの旅エッセイは見たもの、体験したものをダイレクトに書いて行くというより、上手く言えないけれども「そこにポツンと居た自分の一瞬の感覚」みたいなものが多い気がする。その感覚がこちらにも浸透するかのごとく、現地で出会った人々の表情までくっきり目に浮かんでくる。血の通ったものが感じられる。とても近い。何が近いかよくわからないのですが、近くに居るような気になるのです。

 

 

 

 

香港のレストランで働くウエイトレスの話を読むと、その彼女の笑顔と大らかさに包まれる。本当に気持ちが温かくなる。互いの一瞬の笑顔が旅の大事なエッセンスになっていることがよく解る。

 

角田さんはまた、その旅先の「場所との相性」というものについても触れている。動物的なものでもあるのかな、土地との相性って確実にあるとわたしも思っている。何度も足が向く場所もあれば、もう来ないだろうなぁ~と感じながら旅をすることもある。角田さんもまた、幾度か訪れる場所に特別な理由があるわけではなさそうだ。

 

旅本を読むと、その人が旅で何を大事にしているかがよく解る。
角田さんはその旅でほんの一瞬でも笑え合えたり、言葉を交わしたり、笑みにも言葉にもならない何かを交換することを大事にされている。とても小さくて、とても大きな収穫になる大事なもの。どこを旅したかというよりも、むしろ誰かとこんな一瞬を交わすことができたという喜びが描かれている。だから、その場所について知りたいと思って読む人向けではないのかもしれません。

 

ずっと角田さんの旅本が心地よいと感じていたのは、そういう「一瞬のキラキラ」を角田さんが大事にされ、それがわたしの感覚に合っていたからなのだなぁと今回気づきました。

 

世の中、旅のお供は「地球の歩き方」からスマホに変わり、再訪した場所も様変わり。そんな変わりゆく状況下でも、自分なりのスタイルを守りながらこれからも角田さんは旅をし続けるだろう。ちょっと重たい相棒である「地球の歩き方」ではあるけれど、やっぱりこの本あっての旅気分。スマホアプリにゃ頼らんぞ!と私も思うのであった。

最後に、

四十代も後半になって、取材と称する用をこなしながら町を移動していると、まだ若いころの私がふと見えることがある。目をみはり屋台街の奥へ奥へと入って行く私や、タクシーにもトゥクトゥクにも値段をふっかけられたくなくてひたすら歩く私や、路上でバスの路線図を必死に解読している私が、あらわれては消える。その圧倒的な用のない感じ、抱えている暇の膨大さに、あまりに驚いて笑いそうになる。そして、立派に用があって、忙しそうに移動している自分がちょっとだけ恥ずかしくもなる。

 

 

このふとした感じの様子、すごくいいな~。
大人にならないと見えない風景のひとつです。

 

 

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