俳風三麗花 :三田完著のレビューです。
昭和レトロの乙女たちと俳句教室に通っている気分になれる1冊
本自体がもう風情のかたまりのような全体的に趣のある1冊でした。
舞台は油蝉があたり一体沸きたっている日暮里、昭和のはじめ。
3人の乙女たちが、暮愁庵句会という俳句教室へ通うという内容。
大学教授の娘「ちゑ」、医学生の「壽子」、芸者の「松太郎」。
教室に通いながら、各々の持つ悩みや揺れる想いなどが
徐々に明かされて行く。
心に抱えている問題は「句」の中にも表れます。
俳句のことが解らなくても、彼女たちの現状を知ってその句に
触れてみると不思議とじんわり伝わってくるものがあり、
味わい深いものに変化する。
だから、なんか俳句が解った気になるのもまた面白い。
そして、句会がどのように進行していくのか、普段覗けない
世界がそこにあり大変興味深いところです。
特に「季語」が毎回提示されるわけですが、「へぇーこういう言葉も
季語なんだ?」と楽しい発見のようなものがあります。
季節によっては屋形船に揺られての句会も催され、
トラ、トラ、トーラ、トラ♪ トラ、トラ、トーラ、トラ♪
なんて声が聞こえて来て、その世界にすっぽり包み込まれます。
お教室後にちょっと寄り道をする乙女たちの向かうところは、
甘味処「岡埜」。
そこで乙女たちはお汁粉を食べながら、今の女性と変わらず
身の上の話に花を咲かせているのです。
ちょっと苦い自分の悩みのおともには甘いもの。
これ、なくてはならない組み合わせですよねぇ。
中村屋のカリー、日本橋白木屋の大火事、当時の歌舞伎、
鳩居堂、少女の友…など、随所に年代ものの言葉が散らばっていて
昭和レトロ好きにはこの空間はたまらないはずです。
小説の醸し出す雰囲気も良く、俳句に関することも文句なく面白い。
読んで損はない内容です。
さて、最後にこの句に初春の季語が含まれています。解るかな?
鈴の音はもはや聞こえず猫の恋