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うずまきぐ~るぐる 

*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【レビュー】漁港の肉子ちゃん: 西加奈子

 

 

漁港の肉子ちゃん: 西加奈子著のレビューです。

 

「すごーいいいい、すごおおおいいいいいっ」これは一体?

 

「すごーい、すごーい」が激しくなると…
「すごーいいいい、すごおおおいいいいいっ」になる。
一体なんのことか?

 

これはなんと、肉子ちゃんのイビキなんです。
イビキにも「っ!」がつく人。それが肉子ちゃん。
この音だけで肉子ちゃんがどんなキャラなのか目に浮かんできませんか?

 

西加奈子さんの作品を読むのはこれで2冊目。
登場人物の魅力を文字だけで強烈なインパクトを読者に与える作家さん。
西さんの描く人物たちはみんな魅力的で生命力があり、憎めない人ばかりだ。
本当に良い!そしてとてもパワーがある。読むと、なーんか元気にもなれちゃうんです。

 

 

肉子ちゃんは太っていて不細工。でも、陽気で男に騙されても決して恨んだりしない非常に大らかで人間味ある女性。食欲も旺盛で声も大きい。

 

それとは対照的なのが、娘の喜久子。肉子ちゃんと容姿も性格も全く違う。思慮深く繊細で読書が好きな少女。

 

この喜久子の目を通して、肉子ちゃんについて、また、漁港の人々や、学校生活が面白おかしく語られていく内容。

 

 

注目どころはやはり「肉子ちゃん」なんですが、それ以外にもちょっと懐かしくなる学校内で起きる「女子の分裂」なるゴタゴタ。トイレに一緒に行くか行かないかで友人との仲良し度をバロメーターにしているあたり、「くふふ」と笑わずにはいられない少女たちの学校生活の様子がよく描かれている。

 

また小ネタが面白い。

「エロ神社」とか「三つ子の老人」とか「うをがし」という名前の焼肉屋や、学校の男子は「松本、桜井、二宮」の嵐の名前を用いたりと小細工がされているのも楽しい。
大笑いと小笑いの波があちこちあり、寄せては返す感じです。

 

全体的にはこの小さな漁港の人々の様子が淡々と描かれているだけなんです。
しかし、最後の部分にしっかりオチは用意されている。


またそこにホロリとさせられ、一気に肉子ちゃんに吸い寄せられてしまう。
大きな愛情が満ち溢れていました。

 

舞台のモデルは震災前の石巻。作品を書き上げて数ヵ月後に震災があったそうです。
西さんも訪れたことのある場所で、実際あのような状況の中、「パピルス」での連載をし続けることに戸惑いがあったそうだ。作者にとっても特別な思いがある作品であることが「あとがき」から解ります。

 

どうぞ、肉子ちゃんに一度会ってみてください。ちょっと賑やか過ぎて、たまにウザイと思うかもですが、最後は彼女の魅力を存分に知り、忘れがたい人物になることでしょう。