現代語訳樋口一葉「大つごもり他」 :樋口一葉のレビューです。
☞読書ポイント
【感想】一葉のオチは心地良い
18歳のお峰は、下町で八百屋を営む伯父夫婦に育てられました。
お峰は両親を幼い頃に亡くし、下町で八百屋を営む伯父夫婦に育てられ、そして、現在は山村家の奉公人となって生活しています。
年の瀬が押し迫ったある日、お峰は久しぶりに伯父夫婦の家を訪ねますが、伯父は病気で部屋の中は家具もなく、苦しい生活状況が窺えます。
高利貸しからの借金があることを告げられ、お峰はなんとか山村家からお金を借りることを伯父と約束しますが…。
この山村家の奥様という人があいにくケチで有名。
やはり借りることも出来ず約束の期日が迫って来たある日、お峰はついに、引き出しから1円札2枚を盗んでしまうのです。
ちょうどその頃、この家の放蕩息子の石之助が父親に金を無心する。やがてばれるであろうお峰の盗んだお金は、この石之助の登場によって話の方向が大きく変わります。
話自体は「奉公人がお金を盗む」といった、極々ありふれた内容なのですが、この最後のオチはお見事!
こういう最後の場面を読者に印象付けるのが本当に上手な一葉。またまたしばらくその余韻に浸ってしまいました。一葉の話のもって行き方は、なんだか私の波長と合っているのか、すごく満足感があります。
そして、本書に収められているもうひとつの作品「われから」。
現代語訳でも読みにくく(自分の読解力不足も)、2度読みしました。
こちらは、父の莫大な遺産をもらい、入り婿を迎える娘の話で、その婿に捨てられるという展開ではあるのですが、この娘の両親の話と重なり合わせながら進むので、1度目は途中で混乱してしまい、時間を置いて再チャレンジ。
夫は飯田町にお波という女を囲っていて、妻は時々癪を起こすようになる。書生の千葉を呼んで看病させることなどから妻は女中達に千葉との仲を怪しまれ噂になる。そんな荒んだ夫婦の行方は…。
話は最後の夫の一言で、「あれまぁ」と言った感じであっけなく終わる。いろんな意味で、20代でしかも結婚経験もない一葉がよくここまで書けたものだと…。やはりただ者ではない才能を感じずにはいられない何かがありました。
以上の2作品。短編ではあるけど、私的には非常に満足。ますます一葉さんの世界に興味が持てました。ただし、美しいといわれる文体を読むにはハードルが高く、難易度は高い気がします。現代語訳じゃないと、とてもとても…と言った感じです。
【つなぐ本】本は本をつれて来る
一葉さんの生活は、執筆活動をしながら本当に大変だったのです。これ以上ないと思うほど一葉さんにぴったりタイトルです。