死都ブリュージュ:G.ローデンハック著のレビューです。
感想・あらすじ 男やもめとブリュージュはいつもどんより曇り空
これは少なくとも100年以上は前の作品であろう。
私がブリュージュを訪れたのは20年前。
100年前と20年前。
まるで再現フィルムを見ているかのような不思議な気分でずっと物語の中にわたしは居た。
乱れ響く鐘の音も、どんよりした天気も、寒さも、黄昏時も、重厚な雰囲気の建物も、全てこの小説の主人公のである男やもめと共有したかのような錯覚。不思議すぎるほど不思議な気分に。
私が訪れた日も泣きたいほど寒くてどんよりした曇り空だったということもあったかもしれないが、ここまで自分の心の中にある風景と重なるなんて。
最愛の妻を亡くし寂しいやもめ暮らしに男が選んだ場所はブリュージュ。
亡き妻との思い出の中で生きる彼は孤独に一日を過ごしていた。
女中はそんな彼の生活に寄り添い献身的に仕事をしている。
やがて彼は亡き妻にそっくりな踊り子である女性に出会い、恋をし、再び潤いのある生活を取り戻すのだが・・・。
男が女にどんどんのめり込んでいく様も、この女性が徐々に本性を現していく様も、やっぱりなぁとちょっと意地悪な目線で読んでいた。
二人の関係ははじめこそ順調であったが、ブリュージュの天気と同様、徐々に雲行きが怪しくなる。二人の未来になにひとつ希望は見えてこない。
なんとも陰鬱な雰囲気が充満していく。男やもめは結構まだ若いのに、自分の中では
ずっと哀しい老人のイメージままに終わった。
この小説で圧倒的に心に残ったのはやはりブリュージュの風景。
大量に挿し込まれた風景写真の効果もあったと思う。
人間心理はもちろん、町を描いた小説としても秀逸であった。
自分の住む町が「死都」と頭についたブリュージュの人々は、この小説をどう読んだのだろうか?ちょっと訊いてみたい。