夜の谷を行く:桐野夏生著のレビューです。
どんなに償っても決して終わらないものがある
連合赤軍女性兵士の話ということで、読もうか、読むまいかかなり迷った。事件に関してもほとんど知識がなく、ただただ何か複雑で怖しい出来事。難しい話になるのだろうと読む前から気が重かった。しかし、読み始めたら止まらない、あっという間にラストまで一気読みでした。
本書では事件そのものはそれほど大きく取り上げてはいない。
啓子という連合赤軍で活動してた女性のその後の人生と今を描いたもので、日常の中で当時の人間関係などを回想していくといった感じだ。なので、すんなり小説に入っていけるわけだが、総括とかリンチとか残忍なシーンが所々挟み込まれ、当時何が起こっていたのか?ということが徐々に浮かび上がってくる。
啓子は刑務所での刑期を終え、現在はひっそり年金暮らしをしている。家族とも縁が切れていたけれども妹とは和解し、つかず離れずの関係。しかし、姪っ子の結婚で、啓子の過去が持ち上がり、再び関係がぎくしゃくし始める。
もうひとつ、活動家の仲間からの電話。
彼の電話を取ったことから、当時の仲間たちの行方が明らかになってゆき再会を果たすことになる。
消せない過去、取り戻せない人間関係。
心の闇はどこまでも深く、孤独の底へと落ちていく。
本書を読んでいると、掴みどころのない哀しさに何度も立ち止まってしまう。
この気持ちは一体誰へ?どこへ?向けたものなのかも不明なまま、
またページをめくることになる。
犯罪者がどんなに償って、禊が終わったとしても、決して終わらないものがある。
それが一体何であるのか、そういった目に見えない部分をこの小説は示していると思う。
ラストは小説らしい着地点。
ずっしりと心に重石をのせられたような展開に「ほほー」と思わず唸ってしまったよ。
と、なんだかまとまらない感想になってしまったが、わたしみたいに鉄球で建物を破壊するシーンぐらいしか記憶にない、でも事件は気になっている・・・・なんて人には、
入りやすい内容だと思います。
ちょっと勇気は要るけど、関連本をいずれ読んでみてもいいかな~という気持ちになったんだから、桐野さんの小説はやはりスゴイ。