おとうさんがいっぱい (新・名作の愛蔵版) 三田村信行著のレビューです。
感想・あらすじ
もう逃げられないという怖さが忍び寄る
5つの物語。
タイトルからコメディな笑いを期待していたら大間違い!
怖いぢゃん!
静かに怖い。
ギャーとか叫ぶような怖さではなく、もう逃げられない怖さ。
表題の「おとうさんがいっぱい」はお父さんが増殖する話。
主人公の家である日、お父さんが3人になってしまう。
この家だけでなく町中でも同じ現象が起こり、政府を巻き込み大騒ぎに。
「おとうさんは一家に一人でいい」ということになり、さぁ、どのお父さんが家族と暮らせるのか…。一緒に生活が出来なくなったお父さんの行方は?
結構なシリアスな終わり方なんですよ、これが。
他に私が最も怖かったのは「かべは知っていた」。
夫婦喧嘩の果て、おとうさんは家出をする。
家出といっても行く先は「かべ」。おとうさんは、子供の前からかべに吸い込まれた。
おとうさんは、おかあさんに心配させたいがために、このことを内緒にするように子供に言う。壁越しから、子供と会話は出来る。この時点では、おとうさんはいつでも戻れると過信していたのだが…
父親と子供の壁越しのやり取りが、徐々に切ないものになってゆく。
反面、おかあさんはおとうさんを忘れ、やがて他の男の人を連れて来る。
気持ちもすっかり切り替えている。
そして新生活を始めるために引っ越しの準備へと…。
さっぱりしたものだ。
母親と正反対に子供は最後までおとうさんを気にかけている。
なんだかゾワッと寒いものを感じずにはいられない。
もちろん、この得体の知れない壁も怖いのだけど、人間の気持ちの流れもかなり残酷で怖いなぁと。このあたりを、子供たちはどのように読むのだろう…気になります。
そうそう、部屋では改築がはじまり、壁が壊されているようだ。
おとうさんは見つかるのか?
最後に「あー良かったね」と終われない話ばかり。
子供の本なのに、シビア~~。
「世にも奇妙な物語」っぽいという感想もたくさんあるようだ。
確かに物語の合間にあの音楽にのって、タモリさんが出てきそうな雰囲気です。
さて、うちの「かべ」はどうなのだろう?
怖いけど、そっと「かべ」を触ってみるか…。