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【感想・書評・考察】星の子:今村夏子

 

 

星の子:今村夏子著のレビューです。

星の子

星の子

 

 

感想・あらすじ 「来た!この不穏な空気!」 確実にこのムードにハマっています

 

「あひる」を読んだ人は、かなりの確率で気になり手に取るのではないかと思われる「星の子」。「もう表紙に騙されないぞ!」なんて思いながらも、今回もとても魅力的な装丁画に「美しい物語かも?」と妄想を膨らませるも、数分後には「来た!この不穏な空気!」と妙な安堵感。

そうなのだ。この違和感、この不穏な空気をどこかで私は望んでいた。「あひる」同様、本書もズルズルと今村さんの描く違和感ワールドに誘われ、頁をめくる指が止まらない。

 

ある家族の話は、娘のちひろの湿疹が、なかなか良くならないという状況であることからはじまる。どうにか治してあげたいと必死になった夫婦は、ある人から「水が悪い」と指摘され、体にいいと言われる「水」を紹介される>幸い、その水を飲んだちひろは短期間で回復に向かいすっかり元気になる。夫婦もこの水を飲んで調子がいいことからこの水にほれ込み、販売している「宗教」にのめり込んでゆく。

 

 

藁にも縋すがる気持ちから始まった信仰心。周りから見ると滑稽なほど理解不能な行動をする両親。姉はそんな両親に反感を持ち早い段階で家を出てしまう。親戚も目を覚ませと両親を説得しに来る。

 

ちひろは学校生活を通して、友達家族と比べてどこか自分のところはおかしい感じてはいる。しかし、小さい時からそれがちひろの日常だったわけだから戸惑いはするけれども、両親と一緒に生活をし、宗教団体の行事にも参加している。 

 

何かを犠牲にしてまでも信じることを止めない強さの根底にあるものが、この家族のようにわが子を救うためにだったりすると、出発点が出発点なだけになかなかこの両親を非難する気持ちにもなれない複雑なものが残る。しかしながら、何が良いとか悪いとか、そういうことをジャッジする小説ではないところが私は気に入っている。

 

 

 

 

ラストは今までの不穏な空気から一変して、新鮮な空気が運ばれてくる。各々が今見ているもの、見えないもの、この家族だけでなく読者にも問いかけてくるような終わり方であった。

 

本書を読みながら頭の中にあったのは三島由紀夫の「美しい星」。内容は全然違うのですが、家族、信じるもの、星を眺める等々...ことあるごとにあの不思議な家族が頭をかすめて来た。なんか同じ匂いのする小説だったなと。

 

今村夏子さん、やっぱり面白いです。離陸における滑走路の距離はうんと短くても、あっという間に空に到達するような小説を書かれる方だほんのわずかな導入文を読んだだけで、読者を一気に小説の世界に入り込ませる腕は相当なものだと思う。今回芥川賞は逃したけれども、今後大いに活躍される作家の一人だと思う。

 

映画化

星の子

星の子

  • 芦田愛菜
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文庫版

星の子 (朝日文庫)

 

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「星の子」を読んでいてずっと三島氏のこちらの小説が頭の中にあった。どちらもタイトルに「星」が付いているのは偶然なのか!?DVDの表紙もなんか雰囲気が似ているし。