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*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【レビュー・感想・あらすじ】一葉:鳥越碧

 

 

一葉:鳥越碧著のレビューです。

一葉 (講談社文庫)

一葉 (講談社文庫)

 

 

感想・あらすじ これからという時に…これも運命なのかな 

 

「燃ゆる想いで読み切った」という児玉清さんの素敵な帯の言葉に惹かれ読みたくなりました。

 

本書は作者の鳥越さんの少女の時からの憧れの女性であった「樋口一葉の生涯」を小説にしたもの。なるべく史実に沿うように努力されたようですが、小説というジャンルの中で、大好きな一葉を自由に泳がせてみたかったということで、鳥越さんの想いの詰まった作品とも言えます。

 

さて、私はと言うと、樋口一葉については学校で習う程度の知識しかなかったのもあり、彼女がここまでの苦労人だったとは思ってもいませんでした。

 

正確には私が知っていたのは文学史上での、あの有名な「樋口一葉」であり、それまでの「樋口夏子」に触れたのはこの本が初めてということになります。

 

 

 

 

彼女の人生は常に生活に追われていたと言うことに尽きます。父を早くに亡くし、士族の娘として育ったことに対する責任感から15歳で戸主になり、家族を支えようと決意し作家への道を歩き始めます。

 

母、妹の邦子と力を合わせて生きて行くわけですが、当時は女だけの世帯に対する厳しさもあり、何をするにも大変な状況であったことが窺えます。

 

何と言ってもその生活苦は驚くほどで、明日のお金をどう工面するか、あちこちにお金を借りに行くシーンは、この小説では日常茶飯事で行われています。

 

そんな中、夏子は小説の師・半井桃水との出会いがあり、指導を受けながらコツコツと小説を書きながら学んでいくが、花が開きそうで開かない…。稼げそうで稼げない日々がもどかしく、いつ光が見えて来るのかと悶々とした状況が続きます。

 

作品同様、夏子の恋もまた思うようにいきません。当時の恋愛事情が二人の関係をなんとも切ないものにし、桃水への想いも消えては浮かび、浮かんでは消えて…ずっと繰り返されるのです。

 

まるで「好き、嫌い、好き、嫌い」と一枚一枚花びらをちぎっては、自分の気持ちを確かめているように見える夏子の姿はいじらくもあり、気の毒にも思えて来る。

 

どんなに忘れようとも、どんなに離れようとも、常に夏子の心のなかにあったのはこの桃水。いつも感情を抑えている夏子だが、この一文は、彼女の熱い気持ちを象徴している。

 

たとえ、抱かれずとも、自分はこの男を知っている。この男を信じている。この男を愛している。そして、これほどに愛する自分を、一度も抱いてくれないこの男を心の底から憎んでいる。

 

どんなに慕っても、女として見てはもらえないのか?プラトニックな関係が続く時間の中で漏らすこの言葉は、グッと胸に迫るものがある。

 

そして、ようやく森鴎外や幸田露伴からも認められ、これからという時に、夏子に病という魔が襲いかかる。そして、あえなく亡くなってしまうという…。「どうしてだよ…」あまりの不憫さに思わずため息をついてしまう。

 

 

 

恋愛も仕事もなかなか報われることなく、24歳という若さで逝ってしまった夏子にどう声をかけたらよいのか…。夏子自身はどうだったのか?貴女の胸の裡を聞いてみたくなる。

 

とてもボリュームがあり、ズシッとした読み応えがありました。もっと彼女の作品を知っていれば、この小説の深みが味わえたんじゃないかと少し後悔しています…。児玉さんは「燃ゆる想いで読み切った」そうですが、そういう意味で私は「不完全燃焼気味で読み切った」です。ということで、再読を含め一葉の作品を読み重ねようと思っている次第です。

 

余談ですが、お金に追われた生活をしていた樋口一葉が、現在のお札の中に居るということに、ちょっと複雑な気分でいます。「皮肉なものだね」と、お札を見るたびに思うのであります。

鳥越碧プロフィール

1944年、福岡県北九州市生まれ。
同志社女子大学英文科卒業。商社勤務ののち、90年、尾形光琳の生涯を描いた「雁金屋草紙」で第一回時代小説大賞を受賞。主な作品に、「あがの夕話」「後朝」「萌がさね」「想ひ草」「蔦かづら」「一葉」「漱石の妻」などがある。
また、近著の「兄いもうと」では、妹・律の視点から正岡子規の壮絶な生涯を描き切り、子規の解釈にも一石を投じた。