温かなお皿:江國香織著のレビューです。
◆温かいだけじゃない、ひんやり感もあるお皿なのです
12皿の美味しいショート・ストーリーです。
ちょっとした空き時間などに読むのにもってこいの1冊。
穏やかな美味しいお話が詰まっている本だと思いきや、
そこは江國さん、
「あー面白かった」だけでは、帰らせてくれない何かがある。
例えば…
本妻と不倫相手の女性が、夫に内緒で食事をするという設定。
うわうわ、修羅場到来か?とハラハラするのですが、
拍子抜けするくらい妻の態度が穏やかで自然。
若い女性の方はあれこれ作戦を考えてこの場に臨んだのですが、
この妻の様子に完敗。
私を泣かせることなんて、この人には朝飯前だったのだ。
修羅場の方がずっとまし。泣きおとしの方がずっとまし。
相手の女性をこんな風な気持ちにさせ、
完璧な後ろ姿で去って行った妻。
ありふれた話なのかもしれないけど、なんだかとっても怖いのね。
相手を傷付ける言葉もなく、主人を責めるわけでもなく、
こんな風に思わせるなんて。笑顔で叱られている感じです。
他にも、おせち料理の三段目に愛犬のおせち料理を作る主婦。
愛犬可愛さゆえの行動なのだが…。
「お義母さま、それはローズィ―のお節です」
ね、お正月早々、こんなものを出されたらギョッとしちゃいますよね。
江國さんの描く「温かなお皿」は、ちょっとひんやりする一面もある。
そこがまた面白い。