りかさん:梨木香歩著のレビューです。
リカちゃんをおねだりしたら、りかさんがやって来て…
お人形さんは少女達にいつも寄り添い大事にされる存在。
しかし、ありったけの愛情が注がれる分、葬られたり、持ち主が居なくなってしまった人形は、たまに不思議なことを起こしたりする話など良く聞きます。髪が伸びたとか、夜中に話しだすとか…。
お婆さんに「リカちゃん」をおねだりしたようこ。しかし、贈られたものは黒髪の市松人形であった。
ちょっと笑ってしまいましたが、この時のようこの落胆ぶりが、クリスマスに同じような経験をした私には他人事には思えず、ふて寝してしまうほどのようこのショックはとても解る。
そんなちょっと苦い思いからから始まる物語。やって来た人形の「りかさん」はこれまで、お婆さんと一緒に暮らして来た。りかさんの世話を言いつけられたようこはそんな生活を楽しく思いはじめ、りかさんとすぐに仲良くなり、様々な人形達の消化できていない気持ちを聞き出していくようになる。
雛人形たちが一斉に話しだしたりするシーンなどは怖いと言うより、不思議な空間に包まれる感じでオカルト感はない。けど、実際こんなことあったら、相当怖いよなぁ…。
突如現れるスクリーンに人形たちの当時の様子が映し出される。
様々な悲しい過去の中には、衝撃的でやるせない話も登場する。
そんな人形たちの思いをりかさんと一緒に聞きながらどうにかしようと、ようこも懸命に考える。果たして、それらの人形達の気持ちは報われるのか…。
本書は人形の話だけでなく、ようこの友達、母親、そしてお婆さんとのやり取りが、なんとも優しく心地良い。また、友達の家へ遊びに行く時の小躍りするよう嬉しさなどの懐かしい感情もよく描かれこちらまで嬉しくなってくる。
少女たちの多くが一生のうちで最も人形と濃密な時間を過ごすこの時期。だから、自然にこんなことが成立してしまってもおかしくないと思えてしまう。不思議な世界はきっと大人になると消えてしまうものかもしれませんね。
「からくりからくさ」は、本書の関連本。素晴らしい話ということで合わせて読んでみたいと思います。
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