小さな町の風景 :杉みき子著のレビューです。
◆小さな町のぬくもりが私のもとへ
作者が住んでいたという小さな町が教えてくれた数々のお話です。
こんなにも繊細で美しい話が、次から次へとこぼれ出す世界があるのなら
自分も是非、その地を訪れてみたいと思ったほど。
「歓喜橋」というちょっと変わった名前の橋があったり、
木の電柱が残っていたり、火の見やぐらがあったり。
日が暮れるとすぐ暗くなってしまう町。夜が早く人影も少なくなる。
そんな中を帰宅する少女のためだけに、灯りをともして営業し続ける
心優しいくだもの屋さん。
この町にある空気に次第に包まれてゆく。
不思議に思ったり、ほっこりしたり、懐かしくなったりしながら。
坂・商店・塔・木・電柱・鳥・橋・海 8つの風景がテーマになっていて、
その中に小さいお話がいくつも綴られていく。
ふぅ~~と、うっとりしたのが、「至福の季節」。
わずか1.5ページなのに、こんなにも、こんなにも…
と、続けて3度読み。
それは、ある朝突然やってくるもの。
誰もが感じるあの季節到来の様子なのだけど、
その正体が明かされる最後までなんだろう…と。
そして、最後の行に来た時思わず「はっ」となり、
目の中にその色が広がった。なんて、素敵な話なんでしょう。
今年もその季節が来たら、確実にこの文章を思い出す
自分がすでに居る。
最初は見知らぬ町を想像していたが、いつしかどこかで
見た風景に入れ替わる。
「私の小さな町は、みなさんの小さな町でもあるのです」
筆者の杉さんは、最後にこうおっしゃっていました。
そうなんだよなぁ…。
いつしか通って来た数々の小さな風景がなんだかとっても
身近なものに思えて来て、そして私の心の中に広がって行ったのです。
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