あたしが帰る家: 群ようこ著のレビューです。
おかあさん おめかけさんってなに?
子供の無邪気な残酷さと、ダメダメお父さんが、とてもシニカルに描かれ、えーちょっとそれは…と思いながらも、実は面白く、一気に読んでしまった。
昭和30年代のある一家。
うちにお金も入れず、家でダラダラしているお父さん。
だから、うちはいつも貧乏。お父さんはしょっちゅう、怒鳴り散らすし、車を運転すれば子供たちが酔って吐いてしまうほどへたくそ。そのくせ、「品川ナンバーじゃないとダメだ」と執着したり、家族の服は買わないけど自分は流行を気にし、いつも新しい服を買う。とにかくこの家のお父さんは曲者なんです。
だから小学生の「私」は、「父親の居ない生活」を願うようになります。
そして「さつじんけいかく」を考えます。
・うめぼしのたね
・せんたくきのあわ
・くちとはなふさぎ
という方法。
これらの方法をさらに緻密に考え、さぁ実行!
はたして上手くいくのでしょうか?
全部で9つの短編になっていて、私や家族・友達の様子が描かれています。
子供ならではの視点で「ぷっぷ」と、笑ってしまうシーンが何度も登場します。
…が、文面は淡々と進むので、笑ってしまった自分に「え?果たして今は笑うところじゃなかった?」と自問自答してしまうことしばしば。
他人のうちの冷蔵庫を見まくったり、お母さんのネグリジェに疑問をもったり、「おめかけさん」の意味を知りたがり何度も親に質問したりと、この「私」も子供ならではの無垢な部分とダークな部分を持ち合わせています。
子供の無邪気な可愛さ、純粋さ。それゆえに見えて来る残酷さ。そんな世界が覗けるのがこの作品です。(ただし、「おばあちゃん」の話はやりすぎ。これは笑えない)
かなり「毒」の含まれた話ばかりといった感じですが、どこか笑ってしまう可笑しさがあるので読後は面白かったという印象が勝りました。
手放しに笑えないけどまた読みたくなるような面白さ。
結構、危険な本です。