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*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【レビュー】太鼓たたいて笛ふいて :井上ひさし

 

 

太鼓たたいて笛ふいて :井上ひさし著のレビューです。

太鼓たたいて笛ふいて (新潮文庫)

太鼓たたいて笛ふいて (新潮文庫)

 

 

あの頃の 作家・林芙美子

 

昭和10年秋から昭和26年夏までの16年、林芙美子の後半生を切り取った評伝戯曲です。生涯を辿って行く本も面白いですが、こういった作家のごく一時期を扱った内容もなかなか面白い。

 

この時代ですからやはり「戦争」がテーマになっています。中国や南方の戦線に従軍し、「兵隊が好きだ」と書いたかと思えば、「もはやキレイに敗けるしかない」と公言した芙美子はたちまち非国民扱いされる。


激動する世の中で、日本人の悲しみを書きつづる芙美子。…と、重い内容のように見えますが、決してそうではない。なにせ、登場人物が非常にユニークで、その会話のやり取りが面白い。

 

中でも島崎藤村の姪っ子、「島崎こま子」の登場には驚きました。このこま子は、藤村の「新生」という小説に出て来る人物とのこと。姪であるにも関わらず、藤村の子供を身ごもったという女性で、藤村に詳しくない私は初耳だったので「なっ、なんと!」と目が点に。

 

林芙美子だけでも十分話としては面白いのに、横からスッと自然にこま子を登場させちゃうあたりが、まったく油断できない展開です。

 

実際、芙美子は「婦人公論」のインタビューで、こま子に会っていたそうだ。こんなちょっとした接点をしっかりキャッチしてひとつの話に組み込んでしまうなんてねぇ。

 

「軍国主義を太鼓と笛で囃し立てた政府お抱え小説家」と、いつも批判の的にされた芙美子。しかし、戦後6年の仕事ぶりは壮絶で、死ぬ間際まで徹夜で仕事をしていた芙美子に「あれは一種の緩慢な自殺ではなかったか」と、ある評論家が語る。

 

戦に打ちのめされた普通の日本人の悲しみを、ひたすら書き続けた日々だったそうだ。

 

エピローグは、今までとうって変わってしっとりとしたムードで幕を閉じます。

 

戯曲は苦手だけど、井上さんの作品はスルスル読める。一葉にしろ、芙美子にしろ、その人選も井上さんの凄いところ。波乱万丈な人生をユーモアを交えて、しっかり伝えて来るあたりがやはり「井上ひさしのスゴ技」なんだなぁ。