箱庭旅団:朱川湊人著のレビューです。
いつも聞こえるあの音が…
16編のショートストーリー。
例えば、毎日定時に聞こえるあの音。
人それぞれの生活パターンに組み込まれた音ってあると思うのです。
私の場合は、ご近所さんがアサイチにお庭に水をまくのですが、
その音が聞こえると、7時。あーそろそろ起きないと!って。
この16編で特に私が気に入ったのは「黄昏ラッパ」
町の誰もに愛されていた豆腐屋のコウジくん。
「プ~ハ~」と町に響き渡る懐かしい音。
そんな耳慣れた音がある日を境に聞けなくなる。
それはどういったことか…。
こんなちょっとどこにでもありそうな些細な出来事が、
朱川さんの魔法にかかると、独特な世界へ繋がっていきます。
正直、今回、前半は少し退屈な内容の話もあり、
残念なムードが自分の中に漂っていたのですが、
いやいや、中盤からみるみる本調子?というか、
あの不思議な感覚が次々感じられて、とうとう、この
「黄昏ラッパ」では、ジンワリ涙がこぼれてしまった。
ホラーとも、ミステリーともファンタジーともいえるけど、
怖さや謎がジャンル分けするほど凄いわけでもない。
けど、不思議だし温かい気持ちになったり、懐かしくなったりする。
レトロファンタジ―ってあるのかな?
ともかく、
いつも忘れていた何かを思い出させてくれる作家さんなのだ。
こんなちょっと他にない世界を見せてくれるシ朱川さんの作品。
これだから、止められない。