アカガミ:窪美澄著のレビューです。
もしかしたらこんな日本を経験してしまうかも?という「怖さ」が強烈に迫り来る
人間の体温を感じさせない世界とでもいうのか?
すべてが無機質で、どこか地に足がついていないような浮遊感。
ここは一体どこの国?
そう、ここは2030年の日本の姿だったのだ。
若者たちは結婚はもちろん恋愛すらしなくなり、一人で生きるという選択をするのが主流になっている。また、将来に希望を見い出せずにいる若者の自殺も止まらない。少子化どころか子供を見る機会もめっきりなくなり、少し前の日本の姿はもはやここにはない。
そこで国はお見合いシステム「アカガミ」を設立する。ここに志願して来た若者たちは健康チェックなどの審査を経て、カップリングされてゆく。彼らは国が用意した住宅で共同生活をし、上手くいけば結婚、そして出産へと向かう。
ここでの生活は大変恵まれており、住宅から家財道具などすべて国が用意してくれる。しかし、塀で囲まれた敷地内は外の人間の立ち入り禁止などなにかと規則も厳しいが、
彼らの日常生活は概ね護られる。
志願者たちだけではなく、身内のフォローに至るまで万全だ。親の介護、生活等々、国が一切を引き受けてくれる。若者たちはただただ新しい家庭を築くということに専念できる環境を手に入れるわけだが・・・。
これらの条件のもと、共同生活を始めたミツキとサツキに焦点を当て、彼らの新生活を追ってゆく。恋愛をこれまでしてこなかった二人が結ばれるまで、そして結ばれてからの心境が綴られる。
一見、普通の恋愛と変わらないものを感じないでもない。
初々しさすら感じるのだけど、なんだかとっても息苦しい。
自分たちの体調や性生活までも国に監視されている感も強く、元来「家庭を作る」「子供を作る」という自然な流れで行っていたものが、ここではとてつもなく不自然で重く感じられるのだ。
ミツキとサツキ、恋愛感情もきっちり生まれてはいるのだけれども、どこか空虚で無機質なものを感じてしまう。
それにしてもなんだろう、この読後のザラついた感じは・・・。
少子化とか高齢社会とか対策ぜずこのまま放置しておくと、いずれはこんな状況になってしまうのか?
小説ではそれが極端に描かれているわけだけれども、一皮剥けば実際こんなことが起こり得るのではないか?と、煽られるものがある。
ラストに来てこれまた足を引っかけられたような驚きとも戸惑いとも言えるものを窪さんは投入する。
作風はいつもとひと味違うものの、やはり一貫した確固たるテーマがここにはあって、色々考えさせられる内容になっている。
窪さんの作品は、読後にささやかな希望を感じさせられるものが多く、今回も確かにそうとも取れる結末だったけど、ん~でも心にザラザラしたものが残っている。
「怖い」という状況はいろんなパターンがあると思うのだが、「アカガミ」は、ひょっとしたら数十年後に私たちが経験してしまうかも?という「怖さ」が潜んでいて、背中にひんやりとしたものを残す。