彼女に関する十二章:中島京子著のレビューです。
中島京子の「彼女に関する十二章」に、伊藤整の「女性に関する十二章」が重なり合う
いくつになっても人は新鮮な驚きを体験するものだな・・・と、思わされる話がごくごく自然に描かれている。齢50にもなれば多少のことではジタバタしなくなると想像するものの実際はそんなではないということが本書から窺える。
例えば子育ても一段落、久しぶりに仕事に就いてみると、これまでどこにも接点のなかった人物に出会い、自分とは異なる価値観を知り驚かされたり、怒りを覚えたり。
はたまた恋人がなかなか出来ない息子を心配したあげくゲイではないかと疑うもその息子がいざ彼女を連れて帰って来たら激しく動揺する。あれこれ考えているうちに、息子はあっという間に入籍、そして孫・・・と、最初に心配されたことは目まぐるしいほどに変化してゆく。
私たちは主人公・宇藤聖子(50歳・主婦)の日常を通して、まだまだ人生に起こるあれこれを観察するように読みふけることになる。
なかでもそういうことも起き得るんだなぁと感じさせられたのは、初恋の男性が亡くなり、その死を彼の息子が知らせに来るという話。初恋相手の面影ある息子にわけもなくドキドキしてしまう気持ち。なんとなく理解できる反面、同世代の死は身近なものになっているのだと感じずにはいられないどんよりした感情が押し寄せてくる。
本書は60年前に書かれた伊藤整の「女性に関する十二章」というエッセイに沿って聖子に起こる様々な出来事を重ね合わせるように描いて行く。聖子はこのエッセイに批判的ではあるものの、終始自問自答を繰り返すことになる。
人生なにが正解かなど到底解るはずもない。
しかし、本書を読み終えるころには個々それぞれが、それぞれの幸せを求めて歩き始めてゆく姿が浮かび上がり、後半の人生に光を当てる。
伊藤整の「女性に関する十二章」も気になるところ。
ちょっと古めかしい考えがどんな感じで書かれているのか興味津々である。