ロバのサイン会:吉野万理子著のレビューです。
もし、動物たちの心の声が聞けたなら・・・
ロバのお話かと思いきや、猫や犬、アゲハ蝶や奈良公園のシカたちまで、
人間と近い存在である動物たちの話し声が続々と登場する。
動物と言えば身近なペット。
一緒に暮らしていると、彼らは一体私たちのことをどう思っているのだろう?
なんて知りたくなることがあるのですが、その好奇心を満たしてくれるとも
言える世界がここにある。
いくら仲の良い関係性でも、動物だって人間に対してぼやきたくもなるし、
違う動物を見て思うこともたくさんある。
仕事を持つ動物たちは人間と同じように仕事に関する悩みも多い。
動物プロダクションに所属する女優猫。
イルカショーに出ているイルカが飼育員に寄せる一途な想い。
ナラコウエンデビューして、シカセンベイを初めて食べる野生のシカ。
蛹のころから女性の危うい恋愛を見守るアゲハ蝶。
もちろんどれも架空の話なんだけど、彼らの心の声を聞いているうちに
本当にそうなのかもしれない・・・と、いつしか動物たち側の気持ちに
なっている自分がいる。
私的にどっぷり感情移入しちゃったのは、
セキセイインコと飼い主である青年の話。
ここではセキセイインコが最期の時を迎えている。
インコが持つ青年への気持ちがポロポロと語られてゆく。
まずいまずい・・・と気持ちを奮い立たせるも、
堪え切れず声を出して大泣きしてしまった。
それもこれも自分の飼っていた小鳥の姿と大いに重なってしまったから。
インコの亡くなる寸前の行動が当時の様子にそっくりで、
まるで自分の小鳥がわたしに語りかけてきたかのように思えてしまって。
あぁ、会いたいなぁ。。。と、いつまでもグズグズしちゃいました。
・・・という極端に感情移入してしまう話も登場しましたが、
全体的にはユーモアがあり、また人間ドラマを近くで見ている
動物たちの冷静な語りは思った以上に楽しいものでありました。
動物を愛する人々と同じくらい動物も人間たちを愛しているんだな・・・
どちらの気持ちも優しくてホロリとした気分で読了。
読者としてはまだまだ読んでいたいという気持ちでいっぱい。
脱走系動物とか、カラスとか、まだまだ物語になりそうな動物はたくさんいる。
ぜひぜひ続編を希望します!!