赤い蝋燭と人魚:小川未明著のレビューです。
なんとも言えない寂寥感が・・・。
短い話でもガッと心を掴まれることがたまにある。
これもそんな話のひとつで、読後も掴まれたまま
引きずってしまうような重さがあった。
海辺の街の神社に産み落とされた捨て子の人魚。
神社の近くで蝋燭を売って暮らしている老夫婦が
この人魚を見つけ、「神様の授かりもの」とし大切にし、
やがて美しく利口な娘へと成長します。
おじいさんもおばあさんも優しいし、娘はお店のお手伝いをと、
懸命に白い蝋燭に赤い絵を書きます。
これが評判となりお店も繁盛し、しかも神社にこの蝋燭を
灯すことによって、水難も避けられるということで
さらにお店は大繁盛。
ここまでは・・・平和な童話ならではのおはなし。
やさしいおじいさん、おばあさん。
そして親孝行の娘。平和な暮らし。
シナリオ通り、美しい話に繋がって行くのかと・・・。
しかし、ある香具師の言葉により話はみるみる急降下し、
ガラガラと音立てて崩れ落ちる。
「え!そ、そんな・・・・」
まぁ、山場的なゴタゴタが起きても、きっと収まるところに収まる
のではないか・・・という甘い考えも虚しく、悲しい結末を迎えた。
「人間は人情味があってやさしい生き物だ」と信じて、
人間の居るところに子供を産み落とした人魚のお母さん。
しかし、「人間が一番残酷な生き物だ」ということを私たちに
訴えるかのように話が反転した。
気持ちが冷え切るような読後感。
なにもかもが消えてしまったような寂寥感。
大人の方が、より人間のリアルな嫌らしさ、
怖さを実感するのではないか?と思える童話でした。