恋の都:三島由紀夫著のレビューです。
届けられた一本の白檀の扇の送り主は?
三島由紀夫氏の描くレトロ感漂う恋愛小説が好きで、
一時、読み漁っていましたが、その後パタッと途絶え、
今回再び戻って参りました。
カンバック作品として十分愉しませてくれた「恋の都」は
期待通り最後の最後まで心躍される展開でちょっと嬉しい。
当時「主婦の友」に連載されていたという本作。
どのくらいの連載期間だったのか知りませんが、次の号が出るまで
ジリジリとした気持ちで待つ女性たちの姿が浮かんできちゃいます。
文庫で中断されることなく一気に読める「今」で良かったなぁーと。
さて、主人公は26歳、ジャズバンドの敏腕マネージャーである朝日奈まゆみ。
彼女のアメリカ嫌いにはある理由がある。それは彼女の恋人であった五郎が
敗戦と共に切腹したという過去があるからだ。
仕事に打ち込む傍ら、モテモテのまゆみは、日本人だけではなく、
アメリカ人にも口説かれることが多いが、彼女は復讐とばかりに
彼らをうまくかわす。
私の肉体をほしがるアメリカ人に、すれすれのところで敗北を
喫しさせてやることが、私には五郎さんの弔合戦のように思われた。
彼らが打ちのめされた表情を見ることによって彼女の復讐心は満たされる。
こう書くとまたなんだかドロドロ劇突入なのか?と想像されるでしょうが、
意外にもカラッとしているのです。
ドロっとした人間関係を思わず期待したくなるのですが、
三島由紀夫氏の小説は意外にもこのあたりサラリとしている。
例えばまゆみと親友が同じ男性を好きになる・・・なんてことも
起こるのですが、ここも女の友情を壊さないという、いたって
クリーンなお行儀よさでまとめられている。
また、時代背景を感じさせられる話題や会話も多く、
その時代に生きた若者たちの様子が伺える。
個人的には当時のハロウィンパーティーの華やかさに逆に新しさを
感じることも多く、まゆみの海老茶式部の仮装シーンに私も釘づけ!
◆最後の一行まで目が離せません!
さて、話は山場へと向かう。
まゆみの元へ一本の白檀の扇が届けられる。
その送り主は一体・・・・・。
いやーここからの展開はちょっと興奮しまくりです。
このあたりの読者の乗せ方が三島さん巧みです!
まったく予想していなかった人物の登場により一体どうなるのか、
固唾を飲んで見守りました。
ラストは・・・・・ラストは・・・・・
白黒はっきりしたラストシーンとはまさにこのこと。
読後感のキレもよく、一途な気持ちをこんなにも軽快に描ける
三島文学をひさしぶりに堪能し、またもや未読作品に手が伸びそうな予感。