池辺の棲家 :加藤幸子著のレビューです。
心地よい生活のリズムが流れている小説
加藤さんの作品は2冊目ですが、どちらも「住むところ」が中心の内容だったことから、「家」に対して何かしらこだわりを持っていらっしゃる作家さんなのでしょうか。
とても読みやすい文章なのでサラサラ読めてしまうのですが、決して軽くなく、何日経ってもこの小説の中の風景が何かのタイミングで思い出されるというくらい、ちょっとした影響力がある作品でした。
さまざまな鳥たちがやってくる池のほとりに住む日常。それは静かで、淡々とした生活のように見えるけど、夫は自分の母親の介護のため実家に帰り別居中。
娘はすでに結婚し孫もできたが、息子は山へ行ったきり戻らぬ人に。そして彼女の胸にはペースメーカーが動いている。多くは語られないけど、ふとした流れから家族の歴史が見え隠れする。
そんな彼女の生活に欠かせないのが、自然との戯れ。池の周りにやってくる鴨や鷗、鴉との会話等、吸い込まれるような描写の数々。
そうかと思えばアフリカで見つけた小説を翻訳したり、長年の女友達とお花見を楽しんだり、銅像の馬にまたがってみたり。
ずっと読んでいて夫婦の年齢層が見えなかったのですが、どうやら「老」がつく年齢にさしかかっているようだ。そんなことを微塵も感じさせない雰囲気から、こんな年の取り方がちょっと羨ましいとも感じた。
夫婦、親子、友人、近隣の人々。どこの関係もベッタリしたものはなく、心地よい距離感の中で自分の今ある生活を適度に愉しむ感じがとてもよい。
独特な彼女の世界観。池に集まる鳥たちと季節の移り変わり。この先も変わることなくここに居続け、彼女は静かに「老い」を迎えることだろう。
そんな静かでゆったりとした時間が流れている1冊であった。






