蜜のあわれ:室生犀星著のレビューです。
感想・あらすじ 老作家の「おじさま」と「あたい」の甘くて妖艶な世界へ
まずは印象的だった言葉の数々を拾ってみた。
「くちべには女の灯台みたいに、あかあかと点っているものよ、消えたら、心までしょんぼりしてくるわ」
「あたいのは冷たいけれど、のめっとしていいでしょう、
何の匂いがするか知っていらっしゃる。空と水の匂いよ、おじさま、もう一遍して。」
次に、女と男の会話を取り上げてみます。
「とうとう今年はあたい、子供を生もうと願いながら、産む間がなかった。
ね、何とかしておじさまの子を生んでみたいわね、
あたいなら生んだっていいでしょう。
ただ、どうしたら生めるか、教えていただかなくちゃ、
ぼんやりしていては生めないわ。」
「はは、きみは大変なことを考えだしたね。そんな小さいからだをしていて、
僕の子が生めるものかどうか、考えて見てご覧。」
「おじさま。」
「何だ、お腹なんか撫でて。」
「あのね、どうやら、赤ん坊が出来たらしいわよ、お腹の中は卵でいっぱいだわ、これみな、おじさまの子どもなのね。」
お気づきでしょうか?
どうやら女性は卵を宿したようです。
実はこの話、老作家と、赤くて若い金魚の女が繰り広げるちょっと不思議で濃密な恋愛関係を描いたものなんです。この金魚の女の艶めかしと言ったら。
自分のことを「あたい」と呼ぶ彼女は、ちょっと蓮っ葉な感じが小悪魔的でもあり、女の私でも読むうちにどんどん魅了されてしまう。上手く表現できないのですが、官能小説でもないのに、ものすごく美しいエロスを感じてしまうものがあります。
ほとんどが男と女の会話で成り立っている小説なのですが、その会話がなんとも妖艶でドキドキさせられる。(ほんの少し変態ちっくな場面もないではないが、谷崎に比べればなんてことなし)
また、この老作家の昔の女たちの幽霊までもが登場し、ますます幻想的な雰囲気を醸し出す。
今までの室生犀星のイメージがガラリと変わる
本書、金魚や花のパーツ写真が載っていて、これがまた文章と相まって妄想が広がるというか。なんだかもう普通に金魚が見られなくなりそうなほど。
とにかく気に入っちゃいました!大ヒットです!女子力ある金魚から、「かわいい女とは?」等々、“あたい”も学んだような気がしています(笑)
いやぁ・・・犀星さんのイメージがガラッと変わりました。狂犬病を怖がっているちょっと神経質で短気な人って印象があったのですが、まぁ、なんとなんと、こんな世界を描く方だったのですね。一気にファンになってしまいました!
余談ですが谷崎は猫に翻弄された猫フェチ、犀星はひょっとして金魚フェチ?作家というのは身の回りにいる動物に翻弄されたがっているんだろうか。
各出版社より
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