薄情:絲山秋子著のレビューです。
感想・あらすじ 「薄情」とは誰のこと? もしや・・・
なんとなく読んでいたら、なんとなく終わっていた。
中身がないとか、つまらないとか言う意味ではなく、きっと大きな変化や着地点が見出せる類の話ではないのだろうなぁ~と冒頭から感じていたものだから、登場する人々の事の成り行きを観察していたという読書でした。
舞台は群馬県・高崎。主人公は宇田川静生は叔父の神社の手伝いをしながら、嬬恋でのキャベツ収穫という季節のバイトで生計を立てている独身男性。
いずれは神主の後継ぎか?といった感じで、実家暮らしだし、経済的にも切羽詰まったものはない。
人づきあいが非常に淡泊で、他人に深入りしない青年ではあるが、それでも高校時代の後輩女子蜂須賀との付かず離れずの関係や、東京からやって来た木工職人の鹿谷さんとその知人たちとの集い、また、新しく出来た彼女を通して、人との距離感、関係性を少しずつ考え始めるようになる。
モヤモヤした消化しきない得体の知れないものの正体は?
地方都市の閉塞感を扱った小説にここのところ立て続けに出合っているが、絲山さんの描くものも非常に情景がよく浮かんでくるものがあった。
からっ風で有名な群馬の土地の雰囲気が文章の端々から感じ取れる。寒く乾いた感じが、どこか人間模様にも映し出されているようでもあり、一抹の寂しさを
感じさせられる。
土地に残る者、他からやって来た者、去って行く者、戻って来る者。地方都市ならではの人間関係は、入口と出口が常にオープンであるにもかかわらず、ちょっと鬱陶しい人の思いや、土地に根付いているものが纏わりついてくる。
人との関係が密なのか、希薄なのか。わたしにはとてもグレーなものに感じた。
やがてあることが発覚し、大きな事件が起き、話は山場を迎えるのだが・・・・。
なかなかコレという核になる部分が掴みにくかった。読後も燻っているものがあり、いつまでも消えない焚火を見ている気分に。
この燻っているモヤモヤした消化しきない得体の知れないものは、主人公の姿そのもののように今は思える。
そして、読み始めの時に感じた着地点についても、やはり見出せるほど易しい小説ではなかった。たぶん、きっと、傍観者的に読んでいたという意味で、私自身がこの小説の一番のヨソモノであり、一番の薄情者なのかもしれない。
・・・とふと思い、ギクリとする。
文庫本