深夜の人・結婚者の手記 :室生犀星著のレビューです。
新妻、犬、そして犀星
・第一章 結婚について 夫婦について
・第二章 友について 芥川君について
・第三章 生について 死について
と言う構成です。
最後に載っていた「著書目録」を眺めて気づいたのですが、私、一冊も室生犀星の作品を読んでいなかったことに今更気がついたという…。
三章からなる本書で何と言っても面白かったのは「結婚者の手記」です。
お嫁さんをもらった犀星の新婚当初の様子が描かれています。
新妻が郷里から連れて来た犬。
一緒に犀星の家にやって来るのですが、なかなか懐かない犬に戸惑う犀星。ようやく馴れたころに、この犬に「狂犬病」の疑いが浮上するのです。
家を訪れるお客さんに噛みつく犬に、犀星は終始イライラ。
イライラがマックスになり妻と大喧嘩へ。
部屋にあった大事な九谷などの陶器を次々と怒りにまかせて庭に投げ捨てる犀星。
「わぁっ、なんつー短気な人なの」と、奥さんが気の毒で同情しちゃいます。
その犬、お医者さんに診てもらい、結局「狂犬病」じゃなかったのです。でも、その後も噛みつく犬。
噛みつかれたお客さんがいつか狂犬病になるのでは…と、今まで聞いてきた「狂犬病」の恐怖話から、よからぬ妄想を繰り返す犀星。結局、妻の実家に犬を戻してしまうという始末。その奥さんと犬の別れが切なくてねぇ…。
「狂犬病」の潜伏期間もまちまちで、すぐ発症するものから、長いものだと20年くらいと会話にありました。今でこそあまり聞かないですが、昔は、野良犬も多く、かなり「狂犬病」は恐れられていたんでしょうね。犀星の怖がり方も異常なほどでした。
日常のエピソードが魅力的
他にも、男同士で話す「結婚生活の心得」的な会話も面白かったですし、第三章では関東大震災の体験、生死についてなど、興味深い内容でした。
ということで、日常生活のちょっとしたエピソードが集められています。「犬」の話がとても印象に残りました。
犀星さんって悪い人じゃないけど、こんな調子じゃ奥さんも大変だっただろうな…と思ったのですが、結構「愛妻家」だったとも聞きます。
その後の夫婦生活がどんな様子だったのか知りたいなぁー。そして、この犬と、噛まれた人々のその後も知りたかったりします(笑)