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【レビュー】からたちの花:吉屋信子

 

 

からたちの花:吉屋信子著のレビューです。

からたちの花 (吉屋信子少女小説集1)

からたちの花 (吉屋信子少女小説集1)

  • 作者:吉屋信子
  • 発売日: 2015/09/02
  • メディア: 単行本
 

 

顔のコンプレックスが招く悲劇

 

この物語は、わたくしにとっても、大好きな、作品です。

 

冒頭、読者に宛てられた、吉屋さんからの言葉。筆者が大好きだと言う作品に出合えた喜びを噛みしめながら読み始める読書は本当に幸せだ。

 

吉屋さんの少女小説はすでに何作品も読んでいて、華やかな女学生の世界にどっぷりハマりこむのがいつものパターンなのですが、「からたちの花」は、上品な描き方ではあるのだけれども、随分と「ひねくれた少女」を登場させたものだと、いつにない雰囲気を感じながら読み始めました。

 

主人公の麻子は容貌が美しくなかったことから、姉や妹のように母から愛されず育った。それゆえに母親の愛情を欲しがったり、いつも姉や妹を妬んだり、学校でも友達と溝を作ってしまうような少々残念な少女として育ってしまったのだ。

 

家族の何気ない言葉がこれまた露骨で・・・。親も人間だから兄弟姉妹、多少可愛がり方の差はどうしても出てしまうものだと思うけど、この小説はそのあたりが露骨に描かれているものだから、麻子の不憫さが際立つ。

 

昭和初期はまだまだ女の子はなによりも「顔」なんですね。「顔」が悪いと愛情さえも薄くなるなんて辛すぎるではないか。

 

家族だけではない。麻子は友達との関係づくりも本当に不器用と言うか。どうしてこんな風になるのかというくらい、友達との間もこじれてしまう。

 

麻子がとんでもない方向に流れてしまう全ての原因は「容貌の劣等感」。小さいころからこの複雑な劣等感を拭うことが出来ないもどかしさに読者も心をつかれる。

 

果たしてがんじがらめになった劣等感から解放される日が麻子にやって来るのだろうか?

 

 

 

ひねくれて、ひねくれて。それでも結末は明るい

救いになるのが、麻子の小さいときからの良き理解者であったおばさんの存在。そして、麻子の友達の母親。麻子にとって母親から得られない愛情を補ってくれたこのふたりの大人の女性の存在は大きい。

 

ひねくれて、ひねくれて、ちょっとイライラさせられたり、もどかしかったりの連続だったけれども、知っている。分かっているんだ。吉屋さんの物語は絶対さわやかな風を
運んで来てくれることを・・・。

 

「からたちの花」も、存分に少女の成長が実感でき、爽やかに本を閉じることが出来る作品なのです。

 

さて、本作品ははじめ「みっともない子」というタイトルだったという。編集者があまりにもリアルすぎるということで変更したとのこと。これについて編集者の方がタイトルに纏わる「後悔」を巻末で語っています。

 

おっしゃる通りリアルすぎるけど、「みっともない子」の方がなんともしっくり来るのは否めない。