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*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【レビュー・あらすじ・感想】水曜日の凱歌:乃南アサ

 

 

 水曜日の凱歌:乃南アサ著のレビューです。

 

感想:特殊慰安施設で働く母親を見ながら育つ少女の葛藤を描く

 

戦後の進駐軍の性の「防波堤」として働いた女性達の話という題材に興味を持ち読み始めたが、とにかく長く感じたなぁ。

 

主人公・鈴子は14歳になる女の子。大家族だった鈴子の家も戦争を境に、母親と二人きりになってしまった。これからは生きるために何でもしなければと、母親は英語が話せることからRAA(特殊慰安施設協会)を紹介してもらい、通訳として働くことになる。

 

鈴子にはこの多感な時期に様々なことを見聞きして疑問を持つ。それは国に対してだけではなく、特に身近な母親にも向けられる。

 

大森海岸の「小町園」では、たくさんの若い女性がやって来てアメリカ人の相手をする仕事を始めるが、中には自殺を図る女性も出てくるなど、少女は過酷な現状を目の当たりにしてゆく。

 

一方、母親がこういう施設で通訳と言う仕事をしたことにより、自分たちが衣食住不自由なく生活を送れることに気づき、その矛盾にモヤモヤとした毎日を送るようになる。

 

鈴子の母親は父親が亡くなってから親しくしている「宮下のおじさん」に戦後は助けられ、この仕事も紹介してもらった。その後、伊豆での生活になると、今度はアメリカ人のデイヴィッド中佐付き合うようになる。常に男の人に頼って、したたかに生きているように見える母親に鈴子は疑問を持ち始める。

 

また、自分たちをこんな風にしたアメリカ人に反感を持つも、実際、母親の恋人と接するうちに、日本人の男性より女性を大切にしているのでは?と思う一方、日本人の女性をどれだけ強姦したか、ということも聞いている。平気で原爆を落とした連中だと思うが、今身近にいるアメリカ人の姿とではギャップがありすぎてその矛盾にも苦しむ。

 

 

 

 

受け入れることも投げ捨てることもできない揺れ動く心

 

全体的に、思春期の女の子が見るには余りにも生々しい世界。アメリカ人と付き合って派手になって行く女性、性病の蔓延、慰安所の閉鎖。そして、父親と結婚して専業主婦であった母親が本当に望んでいたこととは。

 

作品のなかで、鈴子は何度もつぶやく。
「つまんない」
「ずるい」

大人のずるさ、何もかも変ってしまった現状をなかなか受け入れることも、投げ捨てることもできない焦燥感がなんとも色濃く私たちの胸に迫って来る。

 

やがて、慰安所も閉鎖され、いよいよ女性たちが本気で動き出す時代のはじまりを感じさせられるラストを迎える。

 

淡々と進む話の中には、本当にたくさんの人々が登場する。ひとりひとりが経験したことは、どこまでも悲しみに満ちているが、それでも、歯を食いしばり、明日も生きるために踏ん張った女性達の姿がこの小説の中に存在する。

 

様々な大人たちの世界を見て大人になった鈴子が、その後、母親についてどう思ったのか。そして、鈴子がどんな大人になって、どんな仕事をしているのか?等々、そのあたりのことを、知りたくなる。

乃南アサ・プロフィール

1960(昭和35)年、東京生れ。早稲田大学中退後、広告代理店勤務などを経て、作家活動に入る。1988年『幸福な朝食』が日本推理サスペンス大賞優秀作になる。1996(平成8)年『凍える牙』で直木賞を、2011年『地のはてから』で中央公論文芸賞を、2016年『水曜日の凱歌』で芸術選奨文部科学大臣賞をそれぞれ受賞。(新潮社著者プロフィールより)