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【レビュー】吉行淳之介娼婦小説集成:吉行淳之介

 

 

 吉行淳之介娼婦小説集成:吉行淳之介著のレビューです。

吉行淳之介娼婦小説集成 (中公文庫)

吉行淳之介娼婦小説集成 (中公文庫)

 

 

墨田区向島と東向島の境界付近にあった赤線地帯を吉行が描く

 

お久しぶりです、淳之介さん!
───と、思わず言ってしまうのも、1ページ目に閑散とした「鳩の町」を傘をさしながら歩いている淳之介のモノクロの写真がすぐさま目に入る。1968年ころらしい。

 

「鳩の町」というのは、現在の墨田区向島と東向島の境界付近にあった赤線地帯のことを言うらしいのです。Wikiによれば昭和27年当時は、娼家が108軒、接客する女性が

298人いたという。結構な賑わいがあった「鳩の町」に、淳之介も通っていたそうだ。
そこで出会った娼婦たちや、「赤線地帯」の様子を綴った小説が10編。

 

小説とはいえ、相変わらず淳之介自身の「体験談」に近いのだろうな~と感じさせられる主人公たちの行動や会話。お金がなくたって、ちゃっかり通っています。

 

どの話も「赤線地帯」という場所特有の雰囲気があり、平成の今となってはどこへ行ってもこんな「色」を持った場所は見つからないのでは・・・と感じさせられた。

 

そして、解説の方もおっしゃっているが、登場する淳之介らしき男たちは、20代の男性なのだが、昔の20代はこんなに大人だったのか?と、思えるほど落ち着いているのです。

 

娼婦とのやり取りなんか見ていると、中年以降のおっさんか?と思ってしまうほど。

果たして当時はみんなこんな感じだったのか?それとも、赤線で遊ぶくらいの男性だから、かなり早熟だったのか・・・。

 

 

 

さて、本書で一番心に残った話がこれです。

 

ある娼家の一室で、ひとりの客が「蛍の光」を歌い出したのである。
そして、相手の女もその歌に声を揃えた。間もなく、隣の部屋から、男女の声がその歌に加わった。部屋から部屋へ、その歌は伝播し、やがてその娼家は「蛍の光」の合唱に包まれた。

 

町全体に歌が拡がって、別離の歌の大合唱が夜空に吹き上げて行き、やがて「仰げば尊し」の男性合唱が続いたという話が挿話として語られている。

 

赤線地帯廃止の前日の挿話ということで登場するのだが、真実は別として、現在の風俗のイメージと違い、もっと人情味があり、大らかな人々たちが存在し、この町が皆好きで好きでという思いで通い続けていたのだろう、そんな様子が垣間見られました。

 

この町で死んだ娼婦、この町を出て他の仕事で生まれ変わる娼婦。
そして、またこの町に戻ってくる娼婦。

 

「赤線地帯にいた女は、それぞれの女のタイプにふさわしい位置に、その身がおさまってゆく」

 

のちに淳之介は、廃止後の女性たちの行方を取材している。
エッセイを含め、当時の赤線地帯の様子が思い切り味わえた1冊でした。

 

久々に読んだ吉行淳之介。
相変わらず退屈させない人物だなぁ・・・と、小説より淳之介の気配の方が読後に強く残るこの感じは一体何なんだろう(笑)