畳:林芙美子,獅子文六,山川方夫著のレビューです。
知らない作家、知らない作品、思いがけない出会いが!
────漢字一文字で一冊に編む ────
ずっと気になっていたポプラ社さんの「百年文庫」シリーズ。
3人の作家の短編が、一冊に収められている。
サクッと読める短編なので思った以上に手軽で、
これはちょっとした空き時間などにちょいちょい読めそうだ。
そして、一番実感したのが文字の大きさ。
児童書なみの文字の大きさで、中年以降の人々にとっては
「これはありがたい!」と、まず感じるでしょう(笑)
さて、最初に読もうと思ったのは「畳」。
林芙美子の「馬乃文章」が読みたくてここから入ってみた。
もちろん林芙美子のこの作品も面白かったのですが、
今回、まったく知らなかった山川方夫の「軍国歌謡集」が、
とても面白かったので、ちらっとご紹介。
こういう名前も知らなかった作家とひょんな出合いをするから、
アンソロジーって恐ろしい。
この話、共同暮らしをしている男性二人が、
毎晩、アパートの横を通り過ぎる若い女の歌声から、
あれこれ女の人物像を想像する。
明日は彼女がどんな歌を歌うか予想する友人。
翌日友人の留守中に歌声を聞いた僕は、
「当たっていた」と友人に嘘をつく。
やがて友人は彼女の幻影に恋心を抱くようになるが・・・。
友人と僕はいわば正反対のタイプ。
ふたりの会話のやり取りは滑稽で、この話が一体どこへ流れて行くのか、どんどん深みにはまってゆく楽しさがあった。
ラストまで目が離せない展開と、ノスタルジックな雰囲気が
相まって、なかなかいい感じです。
僕の後日談では、作品がギュッと締まり、
歳月の経過を感じさせられる余韻を残す。
この作品は1962年に書かれたそうですが生前未発表。
「山川方夫全集」第二巻に収録されているそうですが、
全集など滅多に手にしない者にとっては、こう言った
作品に出合える確率はほとんどない。
そんな良質な作品に出合えるのが、
このシリーズの凄いところなのではないだろうか。
困ったことにすでに100巻あるそうなのです。
ラインナップは相当ヤバイ・・・と、薄眼を開けて覗いてみると、
それはもう・・・身の危険を感じるばかりでした。
<「畳」収録作品>
・林芙美子「馬乃文章」 ── 家族の生活よりも、酒を飲んじゃう
貧乏作家のダメ夫とその妻の生活を明るく描く。
・獅子文六「ある結婚式」 ── 自宅の「日本間」で小さな結婚式を取り仕切る話。
・山川方夫「軍国歌謡集」