長いお別れ:中島京子著のレビューです。
感想・あらすじ 何度も何度も「もし」という問いかけが・・・
読み易いのもありサクサク読んでいたのだけれど、途中からズン、ズン、とリアリティが増してきて、この話の重みが感じられて来た。
主人公である東家の大黒柱、東昇平の認知症が少しずつ少しずつ進行してゆく様子を目の当たりにして、何度も何度も「もし」という問いかけが、わたしの中で浮かんでは消え、消えては浮かんでくる。
「もし、自分の親が」いや、「もし、自分自身が」・・・。問いかければ問いかけるほど、不安がお化けになり、かと言ってどう備えておけばいいのか、のしかかって来る
見えない敵にオドオドしてしまう。
本書は昇平が認知症の症状が出てからの10年間を綴ったもの。妻をはじめ3人の娘たちがどのようにして、刻々と進行してゆく認知症の父親と関わり、また、どのような介護を選択するか等々、現実の厳しさと状況判断の難しさに迫る。
3人の娘たちはすでに親と別居をしている。結婚して海外生活の娘、妊娠している娘、キャリアを積む独身娘。皆、それぞれの生活がある。
今まで母親が一人で父親の面倒をみていたという老老介護の現状を今さら知った娘たち。しかも、母親までもが入院という事態に陥り、その間の父親の介護問題など、実際どこの家庭でも起こり得る話であり、なんとも緊張する場面が続く。
そんな中、孫とおじいちゃんというやり取りに、ほんわかさせられる場面もあり、どっぷり暗い雰囲気の小説というわけではない。ちょっとした笑いを誘うシーンも。海外で育った現代っ子とおじいちゃんという組み合わせが意外にも雰囲気をやわらげてくれている。
具体的な会話から感じ取れるものは充分ある
実際のところ人によって症状の出方はまちまちだろう。この小説の中に出てくる昇平の症状も、ごく一例に過ぎないのであろうが、かなり具体的に描かれていると感じました。特に認知症の方との会話ってこういう感じなのだなぁ・・・と。
もどかしかったり、切なかったり、ハラハラしたり。しかし、どんな症状が現れようと、まるまる受け入れる。そんな妻の姿が何よりも印象的でした。
中島さんはやはり時代物より、こういう作品の方が好きだな。最近、個人的に相性の悪い作品が続いたため、今回はどうなのかなーと、ちょっと心配だったけれども、
本作は十分読み応えがあったと言える。
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