仏壇におはぎ:武田花著のレビューです。
読書ポイント☟
何も考えずに本を開こう。どこか懐かしい世界で漂う感じを味わうのに最高な一冊です。
感想:どこも知っているようで知らない場所
今年出会えてよかった作家さんのひとり、武田花さん。
地味な風景のモノクロの写真と、小粋なエッセイが魅力的で、いくら読んでいても疲れない。
本を開くと、
待っていましたかのように、猫がこちらをじっと見ている。
「はいはい、戻って来たよ。」思わずそんなことを猫に話しかけたくなる。
次を開くと、
誰もいな食堂のような寂れた大広間。窓からは海の景色。
日差しの様子からきっと秋の終わりごろ。
次は、
海をバックに大根が大量に天日干しされている風景が広がる。
どんな日差しも受けて立とう!という雰囲気の、たくましい大根たち。
なんの脈略もなく現れるモノクロを見ていると、寂しいながらも日だまりがあるような温かさを感じ、背中を丸めていつまでも浸っていたくなる。
「わ」の話は、
お彼岸のはなしからはじまるエッセイ。
(ご両親の)仏壇におはぎを載せた小皿を置く。
今の飼い猫を無理矢理膝に乗せ、前肢を合わさせ、「南無阿弥陀仏」を唱えてから、おはぎをぱくりとやる。すると、トメさんと、あの巨大なおはぎを思い出すのだ。
両親の仏壇のはなしから、おはぎにまつわる話へとシフトし、小刻みに蘇るエピソードが浮かんでは消える。いつの間にやら仏壇の前でうたた寝してしまうまで。
エッセイと写真が必ずしもマッチしているわけでもなく、なのに、全体的なトーンに一貫性があってとても不思議。
ミニクラブ・カルティエ、
パブ・パパ、プリジェンヌ、
パブ・フレンド、クラブ・ビショップ
頭上に広がるネオンサインが、迫って来る場末の小さな飲み屋街。
そうかと思えば、卒塔婆の写真。
どこも知っているようで知らない場所。
気だるい雰囲気も含めて、武田花さんの作品たちに魅了されています。