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*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【レビュー】パールストリートのクレイジー女たち:トレヴェニアン

 

 

 パールストリートのクレイジー女たち:トレヴェニアン著のレビューです。

 

パールストリートのクレイジー女たち

パールストリートのクレイジー女たち

 

 

パールストリートへやって来た親子の長い長い話

 

江國香織さんがこの本にとても思い入れがあり、
「どうしても自分で翻訳したいと思った作品」とのことで、
どんな作品なのだろうと興味を持った1冊です。

世界大恐慌と第二次世界大戦のあいだのニューヨーク州。
若い母親と6歳のぼく、妹のアン・マリーは、長いこと
家族を置き去りにしていた父親から一緒に暮らせることに

なったという手紙を受け取った。
そして3人は約束の地、スラム街、パールストリートへやって来る。

しかし約束の日、根気強く玄関先で待つものの父親は現れず。
行くあてもない家族は、ここで生活をすることになる。
途方に暮れた3人の姿からはじまる長い長いストーリー。

全体的に日々の出来事を眺めているような感覚で読むとでも

言おうか。映写機でアメリカの古い映画を観ているような感じだ。

淡々と流れる日々のなかで、ところどころポッとあかりが灯るような
箇所があったり、キンキンとヒステリックな声が聞こえて来たり、
むわぁ~とした言葉にし難い生臭い匂いであったり。

なんと言おうか、これらの断片的なシーンを積み重ねてゆくうちに、
いつしか自分の肌に馴染んで行くような感じがした。

賢く、大人すぎるぼく。
彼にとっての病弱な母親は愛と感謝と心配の、厄介な混合物。

母親はしょっちゅう病気で寝込んでしまうし、ちょっとしたことから
大爆発するという波乱を含む。そのキレ方が尋常でない。

その都度、あぁ、子供たちは気の毒だなーと思うのだけれど、
母親自身まだまだ若いということと、爆発はするけど愛情深い
部分もたくさんあってなんとなく放っておけない人物なのだ。

そんな中にもこの3人のちょっとした幸せな時間が垣間見られる
シーンは本当に心が和まされる。

近隣の人々もこの家族同様貧しく、変わり者が多い。
それゆえにこのストーリーはいつもなにかが起こっているといった

具合だ。

後半はある人物がこの家族に加わったこと、そして戦争と、
ますます低い雲が垂れこんで来る。
幸せを目の前にして起こる悲劇が終始この家族に纏わりつく。

 

ラジオ、窓、夜のストリート

 

パールストリートというアメリカ大陸のごくごく小さなエリアから
見えるものはびっくりするほど大きい。

ラジオから流れてくるものは、世界で起きている悲しいこと、複雑なこと、そして嬉しいことも。理不尽な生活を強いられている

少年にとってはひとり妄想に耽って過ごせる時間でもある。

ラジオ、窓、夜のストリート、・・・
この話を思い出すときはまず思い浮かぶのがこの3つ。

さて、この長い長い話は最終章で家族のその後が語られている。
内容自体、こってりしていて、中盤ちょっと胸やけしちゃう
感じだったけど、それでもこの一家の行方を見守りたい
一心で読了。

江國さんの翻訳ということで、私自身なにか安心して
読めた気がします。
欲を言えば江國氏の解説とかあとがきを読んでみたかったなぁ。
(敢えてお書きにならなかったとも思えるんですけどね。)