どろにやいと:戌井昭人著のレビューです。
ちょっと不思議な読み心地
なんとも言えない、不思議な読み心地だったなぁ。
知らない土地で起こる出来事すべてが、
どこか浮世離れしているような・・・。
それでいて、ちょっとエロスが感じられたりと、
本が手に吸いつくような面白さが確かに感じられた。
【泥にやいと】── 無駄なことや効き目のないことのたとえ。
世の中には知らない言葉がありすぎる。
このタイトル、なんだか引き付けられるものがあったけど、
意味も知らずに読み始めてしまった。
万病に効くお灸「天祐子霊草麻王」。
父はこのお灸を売って歩いていたのだが、亡くなってしまう。
ボクサーを目指していた息子の「わたし」がその父の後を継ぎ、
父の残した顧客名簿を頼りに、日本海側にある「志目掛村」に
訪れるのだが・・・・・。
この村、特別不気味とかいうわけでもないのだけれど、
読み進めるうちに「このまま抜け出せないのではないか」と
感じさせられるシーンが多く不安を誘う。
例えば、宿泊先の旅館のひとこま。
「お風呂場は、部屋を出て右に真っすぐ行ってください。
とにかく真っすぐ行けば着きますから」
実際、主人公は薄暗くやたら長い廊下を歩きながら不安になる。
「とにかく真っすぐ」という言葉を聞かなければ、
引き返してしまったかもと語る。
そしてようやく着いた風呂場で、「わたし」は不思議なものを見る。
長い廊下はまるで異界への通路のように感じられる雰囲気。
なにかあるかも?という思わせぶりが絶妙
本書はこのような「なにかあるかも」という気配が、
あちらこちらに落ちている。
だから、そのひとつひとつを拾って歩きたくなる。
村で出合う人々も、ちょっと訳ありといった感じの人が多く、
その人々の奇妙な行動や話から、どんどん興味を煽られる。
全体的に飄々とした雰囲気で、なにをどうピックアップして
感想を話せばよいのか、この段階に来てもちょっと不明なのだが、
この感じがまさに「どろにやいと」なのかもしれない。
知ったからと言って、なにかが変わるわけでもなく・・・。
役に立たない無駄話がこの本のタイトルの
意味なのかもしれませんね。
本書は好きな人は結構はまるんじゃないかな~。
私はこの掴みどころない雰囲気、嫌いじゃないです。
他の作品にも触れてみたいと思っています。