屋根屋:村田喜代子著のレビューです。
あなたに逢えるまで眠り続けたい~♪
なにもかも終えて、今日という日が終わる時間帯。ベッドに横たわり、枕元のスタンドをつける時の、あのとろんとした小さな幸せな時間帯。そんなひとときを共にするのにぴったりだと思えた作品「屋根屋」。
北九州に暮らす主婦・みのり。古くなった家は、屋根から雨漏りをするようになり、修理をしようと「屋根屋」に依頼する。
修理に来た男は、九州弁の無愛想で朴訥な職人だが、休憩時間にみのりと、ポツリポツリの世間話をするようになる。そして、この男から興味深い夢(寝ている時にみる夢)の話を聞いたみのり。
なんでも屋根屋は夢を操れるそうで、夢の中であちこち旅をしているという。そんな屋根屋に好奇心旺盛のみのりは、自分も行ってみたいとお願いし、夜な夜な一緒に旅に出かけます。
国内旅行からはじまり、やがて味をしめたみのりは、海外へも連れて行ってもらいたくなり、渋る屋根屋を説得し、フランス旅行を決行。
毎晩少しずつフランスの方々を旅するのですが、連日夢の中で同じ場所へワープするのは難しいらしく、ちゃんと二人は会えるのか?など、みのりの不安な気持ちがこちらにも伝わって来るのです。
夢のなかで逢うのは罪ですか?
夢の時間を共有するうちにふたりの間になにかしらの恋愛感情が生まれそうな気配がしてくる。しかし、距離が縮まりそうで縮まらない。
終始どうなるのか?と、私の気持ちも膨らんだりしぼんだり。たまに見るドキッとする発言につい注目してしまう。特にふたりが黒鳥になったシーンで見せたちょっとした戯れがやけに官能的に見える。それは嫌らしいシーンではないのだけれど、なんだかドキッとしちゃうのです。あの朴訥な屋根屋がって(笑)
男女の恋愛もあけすけなものよりこのくらいの微妙さがなんだかいいんですよね。夢の中の旅行とは言え、後ろめたさがあったみのりの気持ちも理解出来る。
観光しているシーンは大聖堂の屋根から飛び降りたり、空を飛びまわったりして、まさに夢ならではの醍醐味を見せてくれる。
と、小説にのめりこんでしまうわけだが、これは現実ではなく夢の中の話。読者も夢とうつつに惑わされ、気づいたらこの世界の心地よさにいつまでも浸っていたくなるのです。
また、「屋根屋」の独特なキャラと方言があいまってなんとも不思議な読み心地と余韻を残す。夢はわたしもかなりはっきり覚えているほうだ。面白い夢もたくさん見て来たけれど、空を飛ぶ夢で覚えているのは一度だけ。いつか屋根屋さんのような人がふと現れて、一緒に飛んでみたいものだ(笑)
今年はまだ始まったばかりだけれど、よい出会いをしたなぁ~と思えた作家さんの一人となった。小説のトーンやリズムが自分に合っていたんだとも思う。きっと若い頃に読んでいたら、この感じは退屈に感じたかもしれない。
心を掴まれた部分は漠然として些細なものなのかもしれないけれど、自分の感性年齢にピタッと張り付くような作品との出合いは、いくつになっても新鮮な感動を運んで来てくれ、嬉しいものですね。いい夢旅行を一緒にさせてもらいました。





