花筏 谷崎潤一郎・松子 たゆたう記 :鳥越碧著のレビューです。
谷崎メモ ────谷崎文学を読む前に
潤一郎、松子(妻)、恵美子(前夫との子)、重子(妻の妹)、
清治(前夫との子)、千萬子(清治の妻)
これは谷崎家のある日の夕餉のメンバー。
ご覧の通り、潤一郎の家には妻の松子の妹と前夫との子供が、一緒に生活をしている。
戦後このようなケースは少なくはなかったのでしょうが、特に重子や恵美子に関しては、ずっと潤一郎が養っていたと言っても過言ではないほど、松子と一緒になった時から、ひとつ屋根の下で生活を共にしてきた。
本書は妻・松子が見た谷崎氏の生活を描いた小説でかなりのボリューム。もうあれこれ知ったことがたくさんありすぎて・・・感想というより、「谷崎メモ」として書いておこうと思う。
■婚歴
全部で3回の結婚。
・一度目の千代との間に娘あり。
千代は離婚後、佐藤春夫氏と再婚。
これが「細君譲渡事件」→「蓼喰う虫」
・2度目は古川丁未子と結婚。結婚生活は短く、離婚。
・3度目は松子。松子の娘・恵美子を養女とする。
松子と出会ってからの作品も多く、姉妹を描いたと
言われる→「細雪」
■恋愛遍歴
結婚前からの恋愛遍歴はなかなかのもの。
・家庭教師をしていた北村家の小間使い穂積フク。
・親友の笹沼源之助の家の女中、おきん。
・従兄の妻、須賀。
・千代の姉の小料理屋の女将、初。
・千代の妹で西洋風の顔立ちのせい子。→「痴人の愛」モデル。
・自家の女中お絹。
これは松子の知っている範囲で、おそらくこの2倍、3倍はいただろうと。なので、松子と結婚したからと言って、他の女性に関心を失うということはないと感じ、その意識が後々まで松子を悩ませる。
特に、松子は妹の重子と潤一郎が実は好き合っているのではないかと、疑って止まなかった。なにせ、自分たち夫婦の隣に重子の墓を作ったというのだから。(とはいえ、潤一郎と重子の関係、実のところは不明)女中とか、姉妹とか、近くにいる女性に惚れやすい?
■性格
ほこりひとつない部屋じゃなきゃ嫌という綺麗好き。
しかし食事は、ご飯はあちこちこぼし、汁を着物に飛ばしながら荒々しく食べる一面も。かなりの食いしん坊と見られる。(グルメ。お取り寄せ好き)
女性の好みは関西弁スキー、おとなしい女性よりハキハキした女性に惹かれる傾向あり。そして、マゾ気質。
また、西洋人のようなはっきりした顔も好みっぽい。
松子との外出時などは、もっぱら彼女に話をさせ、横でにこにこ聞いている。が、これはポーズで、実生活では時間厳守などピリピリした厳しさのある人だったとのこと。
■作品
全体的に私生活をモデルにした作品が多いので、作品を読むたびに、松子の動揺が痛々しいと感じる場面も多かった。「これはあのことなのか?」「ひょっとして?」と、小説を読みながら思い悩む松子。
様々な名作を残しているが、「源氏物語」の訳にかなりの時間を注いでいたという印象が強い。また、なんと言っても「細雪」は、戦時中もひとときも原稿を離さず書き続けていた姿が印象的だ。そのあたりをしっかり心に留めて、いずれこの大作をじっくり
読みたいと思っている。
作品に対する情熱、自信は相当にあり、金欠になっても売れることを前提に生活していたのはたいしたものだ。
私生活がベースになった小説が多いので・・・
ということで、作品自体、谷崎の生活がベースになっているものが多いことより、ただ単に作品に触れるより、谷崎潤一郎という人物と人間関係を知っておいた方が、より小説の奥の奥まで入り込んで行けると思う。芸術に悪影響を及ぼすという考えで、松子との間にできた子供を中絶させたという話で怒りを覚えたが、本当のところはどうも違うらしい。
孫などに対する半端ないメロメロぶりを見ていると、子供嫌いにはとても見えず、松子の身体を配慮した上での優しさから出た嘘なのか?そう思いたい。
全体的に感じたのは、確かに「女たらし」だけれども、どの女性も不幸のどん底に落とすようなことはしていない。生活面での苦労も女性たちにはかけず、どちらかというと太っ腹で面倒みのよい女好きの高血圧なおっちゃん的な(笑)
女性遍歴がこうであるから、妻の松子の心配は確かに絶えませんが、死ぬまで嫉妬させちゃう魅力が彼にはあったのでしょう。本当に、松子さん、好きで好きで・・・って感じでしたよ。(おっちゃん、幸せ者だ!)
そうそう、小説の関西弁チェックも彼女はだいぶ手伝っていたようです。谷崎作品への貢献度も高いです。
はぁ・・・なんだか、このハマり方、以前ハマった「吉行淳之介」に似た感覚があります。次々、女性が登場するあたりがまるで一緒で、手繰っても手繰っても出てくる感じ・・・・。
作家界、「じゅん」のつく男性ってどうなの?
谷崎潤一郎、吉行淳之介、渡辺淳一・・・・
もー、女性大スキスキチームですな。あ、でも芸能界もか?
石田純一、高田純次なんかもそう?
さて、本書がさらなる起爆剤になってしまって、作品はもちろん、もう少し、谷崎氏のあれこれを知りたくなっちゃっています。