水やりはいつも深夜だけど: 窪美澄著のレビューです。
鼻の奥がツンとくる。じわじわ心にもツンとくる。
5つの短編集。
どこにでもある家庭の話ではあるけれど、窪さんの細かい描写によって、いつしか登場人物たちの気持ちに寄り添ってしまう。
例えば、スーパーの話ひとつとっても、容易に想像が出来る。状況が手に取るように実感できる。幼稚園のママたちとスーパーで会う主人公。その人たちを避けたかった。目が合えば話しかけられる。足が止まる。カゴのなかを凝視される。カゴの中身から他人の食生活を想像するのは、いやらしいことだと思うけれど、ママたちの視線に遠慮はない。
・・・嫌らしい部分が剥き出しに描かれている。
わたしはママではないのでこういう微妙な状況は経験がないけれど、それでもレジに並んでいる時に、ひとつ前の人の買った商品をぼーと眺めながら「あ、今晩、この人、鍋か~」なんてことは結構やっちゃっている。ハッと我にかえり「あ、いっけない」って慌てて視線をそらしたりする。
一見自分の知らない世界であるかのように思えるのだけれど、ふとした瞬間に自分の日常と重なり自分を省みる。
手のこんだおやつや料理の写真をブログに載せているがゆえに、人目を気にし、甘いチューハイやお菓子を隣町のコンビニにわざわざ買いに行くという主婦。なに不自由なく暮らしているように見えても、実はその裏で必死だったり、悩んだりする姿を見ているうちに「なにをやっているんだか」と飽きれる半分、その虚しさに息苦しさを感じてしまう。
しかし、そんな重苦しい中にも心を解放してくれる人が登場したりして、思わず鼻がツンとなる。じわじわとツンと来る。
男性の心理描写もなかなか!新鮮です
妻が産後に鬱になったことから、孤立してしまう夫の話は夫側の孤独がひしひしと感じられる作品。こちらも読みごたえがあった。
窪さんの作品は若手のママさんの育児や家事や周りのドロンとした人間関係を描いたものが多い。女性の心理描写がとても上手いな~って思っていたけど、いやいや、男性心理描写も負けずに深い部分まで鋭く描く人なのだ。
閉塞感、絶望感の先にほんの小さい「希望」が余韻となって話が終わる。
決して大きな幸せがやってくるわけでもないけれど、静かにゆっくり光が差す感じが好きだ。
そして、ロケーション。
窪さんの作品はよく知っている土地が舞台になっていることが多く、登場人物が移動する空間は、まるごと思い浮べることができる。もう自分のなかではすっかり映画化されています(笑)