ブルース:桜木紫乃のレビューです。
6本指の男、そして男に魅了された女たち
一貫として北海道を舞台にした桜木作品。
ずっと演歌の世界のような小説だなぁ・・・と感じていたところに「ブルース」。
あぁ、ブルースって感じもありだなぁ~と漠然と納得して吹き荒ぶ小説の中へ。
今回は一人の男に関わった8人の女性たちの話。
女性たちの話を通してその男の輪郭が徐々に浮かび上がってゆくという内容から、なかなか本が手放せないという面白さ。
当然、この男はそれだけの謎めいた魅力を兼ね備えている。
主人公影山博人は貧困の象徴「崖の下の長屋」という環境で育った影のある男。
幼いころから貧しさゆえの偏見を受けたり、母親の病気など、この先彼はどうやって生きて行くのか、不安になるほどのどん底感。しかし、彼は裏社会と繋がり、どんどん成りあがってゆく。
博人には大きな特徴がある。それは6本の指。
この指に魅了され、次々と彼に身体を委ねる女性たちの姿に一体なんなんだ、博人って人は?と、なんだか自分もこの男に会ってみたくなって来る。こういうのが「魔性」ってやつなのでしょうか。決して女性に優しいとかじゃない、淡々と身体が絡み合っただけのように感じるのだが、彼とかかわった女性たちは彼との短い関わりをずっと憶えているのだ。こんなにも多くの女性に余韻を残す男って実際いるのかしら?
本書は何と言っても博人の6本の指が印象的。
彼は1本は仕事中の事故で、もう1本は女に切ってもらい川に捨てる。
人は要らないものを持って生まれてくることがあるのだろうか。
彼にとって人より多くあった指を切り捨てたことによって何かが変わったのだろうか?
答えを求めようとすると、淡くぼんやりしたものに変化する。桜木さんの作品はいつもわたしにこんな感想を残す。
博人の魔性になんだか吸い寄せられちゃった敗北感もあったりした・・・・という、おまけつき!きぃーー