海色の壜: 田丸雅智著のレビューです。
好奇心を煽られるタイトル、そこから広がる展開に唸る
ロマンチックなタイトルですねぇ。
ショートショートは最近、ぜんぜん読んでいなかったけど、たまにはいいものですね。
田丸さんのショートショートは初めて読むのですが、発想のユニークさに驚かされました。
ありそうで、なさそうな、あったら面白いかも!?
といった話が多く、クラフト・エヴィング商會の世界に少し似ている。
田丸さんは瀬戸内に面した愛媛県で育ったというだけあって、全体的に海の気配を感じられる作品も多い。
1話目から「ふぐの恩返し」ですもの。ふぐが恩返しする場面って一体どんな?
・・・こんなワクワクした話から20の話が続々と現れる。
ちょっと怖いのが「蜜」。
ミツバチが運んでくる蜜。あの蜜ってどこから運んでくるかご存じ?って、この答えは「人間」。人間の「不幸」を集めてくるんですって。だから、田舎より都会の方が取れるとか・・・。
想像しただけで、一気に口の中が苦くなってしまうような、怖くて不思議な話。たった数ページなのに、ゾワゾワが高まってゆく。
他にも「光るほくろ」とか、「月工場」といって、月を作っているうさぎの話とか、「O型免許」とか、「修正駅」とか、「たまご顔」とか、タイトルを見ただけで「なんだろう?」と好奇心を煽られ、読み終わると、予想に反した展開に唸る。
懐かしさ、海、そんな香りがどこまでも・・・
ショートショートはパラッと読んで、合うか合わないか、直観的に判ると思うのですが、これはそんなこと考える間もなく読み終えちゃいました。
ラストの話、「海酒」。
海の風景を感じながら、思い出に浸り、海の余韻を残す終わり方から、田丸さんが海で育ったという「あとがき」へ続く。
ショートショートだけど、こういうお洒落な演出もなされていて、「ナイス!ナイス!」と思わず言いながら本を閉じた。またショートショートが読みたくなったら、
たぶん、きっと、私はこの人を選ぶだろうな~と思う。