アルバムの家:女性建築技術者の会,女技会著のレビューです。
☞読書ポイント
昭和の家の物語
─────33人の女性建築士が自分の育った家と暮らしを
みずみずしい感性で綴った昭和の家物語 ─────
ということで、本書は建物の歴史を振り返るものでもあると同時に、そこで暮らした家族の思い出がたっぷり語られている内容です。
そこには家族の数だけエピソードがあり、笑ったり、しんみりさせられたりと、まるでミニ小説を読んでいる気分にさせられるのです。
間取り図やイラスト70点、写真50枚。
家にまつわる話に間取りを照らし合わせながら読み進めるのが何よりも楽しく、また、写真もあるので、よりリアルにその時代に入り込めました。
田の字型の和室の建具を全部取り払って、紅玉という種類のりんごを全部部屋に並べたという、長野県下伊那郡の民家の話は「りんごの家」というタイトル。りんごのじゅうたんのような部屋を「ぶ~ん、ぶ~ん」走り回ったという思い出が語られています。
農家の家と伸び伸びと生活している子供の様子。
そして、りんごの香りが漂って来そうなイキイキとした文章に、住んだことがなくてもイメージが一気に膨らむ世界。
広い空間、風通しのよい部屋、そして五右衛門風呂にボットン便所。
そんなお家の話が結構多かったように思えます。
ボットン便所に落ちた話もお約束のようにありましたが、驚いたのが、汲み取り屋さんがお父さんの糖尿病を見つけてくれたとか、「お嬢様、健康に御成長、おめでとうございます。」と言われたのはお姉さんが初潮を迎えた時だったという話。
汲み取り屋さんって、そこまで判るものだったんですねぇ。これは昭和15年生まれの方のエピソードでしたが、この方のトイレにまつわる話はどれも印象的でした。
・・・という感じで、建物の中での出来事から、昭和の人々の生活ぶりがリアルに再現されていて楽しいです。もちろん、画期的な家電がやって来た当時の様子など、何回聞いても楽しい話もたくさん披露されています。
また、写真を見ていると自分が生まれた昭和40年代って、目を疑うほど昔の街並みなんですよねぇ・・・。えぇーこんなだった?と何度も細部まで確認しちゃいました。
それに、写真に写っている子たちは棒立ち(笑)
今みたいにピースしたり、ポーズをとる子供なんて皆無です。
最後に帰りたい家はどこですか?
最後に帰りたい家はどこ?って聞かれたら・・・・
帰りたい家とは建物だけではく、その時代や家族関係に帰りたいのです。
年老いた女の人にとって、一番良い時代とは娘時代なのだと
妙に納得させられます。
ある方が、義母が晩年病院で「うちに帰る」とよく言っていたことをもとにこんな風に語ってらっしゃいました。
帰りたいと思える家 ─────自分が最後に思う家はどこだろう。
そんなしみじみしたことまで、考えさせられるような1冊でもありました。