銭湯の人魚姫と魔女の森: D[di:]著のレビューです。
なかなかアクが強そうな気配
タイトルと表紙の絵の可愛らしさに思わずブックオフで購入。
作家名D[di:] なんて、今風の作家さんなのか・・・。帰ってからちょっと気になり本書の感想をいくつか読んだけど、評価がまっ二つ!うわぁ、どっちだろう?
なるほど、読み始め数行でちょっとアクが強そうな気配。なにせアテンションプリーズからはじまっている。
主人公の女性は「俺」という一人称を使っている。彼女いわく、あくまでもこれは心の中の声であり、「俺」だの「僕」だの「オレ」「ボク」は気分によって使い分けているらしい。
ということで、たまに出てくる「俺」にちょっとしたわずらわしさを感じながらも、ストーリー自体は結構面白く最後まで飽きることはない。
主人公・フウは三十路目前の女性。仕事も恋人との関係もなんだかいまひとつうまくいっていない。ある日、銭湯でバンザイクリフの生き残りという謎めいた魔女のような個性的なおばあさんと出合う。銭湯で二人は交流を深めてゆく。
フウの日常はごくごく平凡なものだが、関わる人々がユニークで、その「会話」がテンポよく愉快。それもこれも登場する人物たちのちょっとした「毒っけ」がいい感じでスパイスになっている。
小説の核になっている
占星学上、29.5年に一度、
人生に大きな試練を与える年を土星回帰(サターン・リターン)という。
人生の大波を目の前にして、フウはどこへ向かうことになるのか。
当然、そこには今までラブラブだった彼氏との関係の行方がクローズアップされる。
フウの事故の連絡を受けて、彼氏のとった行動ったら。こういうところで一気に関係性が揺らぐ感じをとてもうまく表現されている。パンチも効いているし、カタカナ用語が多いのもいかにも「イマフウ」で、読み手を選ぶ小説ではあると思うが、棘をひとつひとつ抜いていった先にまろやかなラストがあり、ストーリーが成立している。特にね、魔女みたいなおばあさんとフウの関係はとてもよかった。
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29.5歳。貴方にも何か起こりましたか?
確かに仕事も恋愛も分岐点だった時期だったなぁと、思わず遠い目になってしまうのだけど、これから29.5歳を迎える方はこの本、ちょっと面白いかもよ。
装丁もタイトルも内容も、どんな小説だか全く知らないまま買ってしまった1冊だったけど、この冒険は正解だった。
楽しめちゃうか、イラッとするか・・何人かにお試ししてもらいたい気がします。
ちなみに著者のD[di:]さん、
小説、漫画、イラスト、絵画、音楽など多分野で作品を発表している。以前は女性向けファッション誌などでモデルとしても活躍していた。 ── (Wikipediaより)
すごい。無敵だ!!