雨のなまえ 窪美澄著のレビューです。
短編でも窪さんの「色」がしっかり感じられる
短編ではあるけれど、短い話なりに窪さんの空気がそこかしこに漂っているものがあります。
短編と長編とではガラッと作風が変わる作家もいますが、窪さんの場合は短編であっても、「あ、窪さんだなぁ」と感じられるシーンが、ちょこちょこ見受けられました。
「雨のなまえ」 ────この話が特に印象に残った。
いわゆる妊娠中の妻がいながら、浮気しちゃう男の話なのだが、この話の舞台となっただろう町は、良く知っているところなので「あ、あのマンションだ!」、「あのグラウンドのことだ」とまるで地図を広げて主人公たちと歩いている気分になり、性描写以上に生々しかったなぁ。
哀しいくらい人間ってやつは・・・・
どの話も哀しいくらい「人間ってやつはまったく・・・」と思ってしまうわけなんだけど、そんな格好悪さや、泥臭い部分が実はすごく興味深かったりするんですよね。
窪さんというとR18とか、性描写が毎度話題になるけど、全ての作品を通して、個人的にはその部分の印象が意外にも薄かったりするのです。
読んでいる時には、「あぁ、来たな」と思うのだけどね。
やはり、このあたり個人差ってやつなのかな?
人間観察が好きな方とかには是非読んで欲しいと思うのですが・・・。R18とか、官能が全面的に宣伝されちゃってるイメージが強いから、なかなか手にされてない方も多いと思う。
ドックンドックン、脈打つ音が聞こえてくる、そんな「生」を思い切り感じられる人間臭い世界をもっと多くの方へ読んでもらえればいいな~。